香港

(JPN) 摩天楼の下に響く鐘の音：香港「金鐘」に隠された5つの魂の物語

金鐘の歴史は、解体と再建、効率性と記憶、そして権力と人々との間の絶え間ない交渉の記録である。この地区にその名を与えた、かつての黄金の鐘（金鐘）はとうの昔に姿を消した。しかし今、金鐘には新たな、比喩的な鐘が鳴り響いている。

Lawrence

24 Nov 2025 — 9 min read

観光の歴史に関する魅力的な物語に注意深く耳を傾けてください

会話型放送では

Beyond the Gleaming Facade

香港の「金鐘」という地区の名は、それ自体が二重の歴史を物語っている。英語名「Admiralty」は、かつてこの地にあった英国海軍の最高司令部、海軍船塢（Admiralty Dock）に由来し、植民地時代の軍事的な権威を象徴する。一方、中国語名「金鐘」（Kam Chung）は、より土地に根差した記憶を呼び起こす。それは、旧ビクトリア兵舎の境界を知らせるために鳴り響いた、文字通りの「黄金の鐘」の音だ。

権力の象徴と、人々の耳に残る音の記憶。この二つの名は、今日の金鐘の姿を完璧に予示している。光沢を放つ超高層ビル群、三つの路線が交わる巨大なMTR駅、そして政府機関が集まるこの地区は、洗練された効率性の象徴だ。しかし、その磨き上げられたガラスのファサードと、淀みなく流れる人々の足元には、一体どのような物語が埋もれているのだろうか。この記事では、金鐘の真の多層的な魂を明らかにする、五つの驚くべき物語を紐解いていく。時間を遡る旅へ、ようこそ。

2. 2,400万香港ドルの約束：一本のガジュマルの木が守られた物語

金鐘の商業化を象徴するパシフィック・プレイス（太古廣場）の建設時、デベロッパーは一つの巨大な難題に直面した。それは、樹齢約140年を数える一本のガジュマルの木（細葉榕）の存在だった。核心にあった対立は、巨大な商業複合施設を建設するという野心と、土地売買契約に明記された「この木を動かしてはならない」という法的拘束力との間の葛藤である。

その解決策は、驚異的というほかない。デベロッパーは、23,890,227香港ドル（二千三百八十九萬零二百二十七元）という莫大な費用を投じて、長さ18メートル、深さ10メートルの巨大な「植木鉢」を建設し、木の根を保護したのだ。この前代未聞の工事は、当時、一本の木を保存するためにかけられた費用の世界記録を樹立した。この物語は、商業的野心と、揺るぎない法契約の力との間に結ばれた「高価な和解」（昂貴和解）として、香港の発展精神を象徴している。

都市の発展という巨大な力が、自然に対してなされた一つの法的な約束の前に、頭を下げざるを得なかった瞬間。それは資本の論理が、契約の重みに屈した物語である。

旅人のための秘宝：太古広場・榕園 (Rong Garden)。商業の中心で、資本の流れに抵抗した生命の力強さと、自然に対する人間の高価な約束を体感できる緑の心臓部。

正義の殿堂の暗い過去：最高法院から憲兵本部への変節

新古典主義建築の壮麗さを誇る終審法院大樓（Court of Final Appeal Building）は、その屋上に立つテミス（正義女神像）の像と共に、公平無私な司法の象徴として知られている。しかし、この法治の砦は、その歴史において衝撃的な裏切りを経験した。第二次世界大戦中の日本占領期（1941年〜1945年）、この正義の殿堂は、軍事的抑圧の中心地である日本軍憲兵総部（日軍憲兵總部）として転用されたのだ。

この「アイデンティティの裏切り」（身份變節）は、制度的シンボルがいかに脆弱であるかを物語っている。本来の目的と暗い過去との対比は、法治という理念がいかに容易く踏みにじられるかを示す。しかし、戦後、この建物が速やかに司法機能を取り戻した事実は、香港社会の法治に対する強靭な回復力（強大韌性）と深いコミットメントを何よりも雄弁に物語っている。

旅人のための秘宝：終審法院大樓（外部見学）とアジア協会香港センター。正義の象徴が独裁の拠点と化した歴史の重みをその花崗岩の壁に感じ、旧火薬庫から文化施設へと生まれ変わったアジア協会で、権力の意味がどう再定義されたかを探訪しよう。

失われた要塞：地下鉄の効率性の下に眠る、香港開闢の記憶

アドミラルティMTR駅の拡張工事中、香港の植民地時代の軍事史の礎ともいえる、ウェリントン砲台（威靈頓炮台）の遺跡と100年前の防潮堤が発見された。それは、香港という都市の起源を物理的に示す、極めて重要な歴史の断片であった。

しかし、その結末は香港の発展哲学を象徴するものだった。工事の安全性と技術的な現実を前に、遺跡は現地保存されることなく、単に「記録」されるに留まった。この決定は、文化財保護団体からの激しい批判を呼んだ。この出来事は、「インフラ至上主義」（基建至上）と効率性が、しばしば物理的な歴史の保存に優先される香港の現実を浮き彫りにした。それは、進歩のために支払われる目に見えない代償と、都市の記憶の儚さについての物語である。

旅人のためのための秘宝：夏慤花園 (Harcourt Garden)。この近代的な公園を歩くとき、その足元深くに香港最古の軍事施設の残骸が埋まっていることを想像してほしい。ここは、効率性が歴史に勝利した場所であり、「記録」は「保存」と同じ意味を持つのかを問いかける空間だ。

市民の広場：静かな緑地がいかにして政治の中心となったか

新しい中央政府庁舎に隣接するタマー公園（添馬公園）は、当初、穏やかで開かれた公共空間、「永久緑地」（perpetual green）として構想された。しかし、2014年の雨傘運動の勃発と共に、その意味は79日間にわたって劇的に書き換えられた。

幹線道路は巨大なテント村と化し、色とりどりの傘が、警察が放った87発の催涙ガスから人々を守る抵抗のシンボルとなった。そこは「傘の街」と呼ばれる、ひとつのユートピア的共同体だった。歩道で宿題をする学生、自発的に救急車のための「緊急通路」を確保する群衆、24時間営業で補給拠点と化したファストフード店。歩道橋には「我要真普選」（真の普通選挙を！）と書かれた巨大な黄色い横断幕が掲げられ、空気には催涙ガスの辛い匂いと平和的な議論、そして歌声が混じり合っていた。

公共空間の意味が、設計者の意図ではなく、それを使う人々によって最終的に定義されることを、この出来事は鮮やかに示した。タマー公園は、行政権力の中心が、いかにして市民的抵抗の焦点にもなりうるかという、強力なシンボルとなったのだ。「意図された用途」と「実際の使われ方」の間に存在するギャップを、これほど完璧に示す例はないだろう。

旅人のための秘宝：添馬公園 (Tamar Park) と添美道 (Tim Mei Avenue)。穏やかな行政景観から、巨大な社会的エネルギーを宿す歴史の舞台へと変貌を遂げたこの場所を歩いてみよう。ここは香港の現代史の縮図であり、権力の中心が抵抗の中心にもなりうることを証明している。

The Echoing Bell of Admiralty

その鐘の音を最も明確に聞き分けるには、二つの物語を対比すればいい。地下鉄の効率性のために破壊され、記録だけが残されたウェリントン砲台。そして、莫大な費用をかけてでも、一本の法的契約を守るために保存されたガジュマルの木。この対比は、香港の独特な価値体系を浮き彫りにする。すなわち、物理的な歴史遺産よりも、抽象的な契約精神と法の支配という理念の方が、はるかに重い価値を持つということだ。

これこそが金鐘が鳴らす「警鐘」（警醒之聲）である。都市が絶え間ない進歩を追求する中で、真に譲れない価値とは何か。その答えは、香港が自らの歴史、自然、そして人々へのコミットメントの中に、今も見出そうとしている。